最近当社のHPにインスタページを新設。その第一弾として「社長 先代との想い出を語る」と題した記事が投稿された。記事を見た知人から、独り言ページにも載せた方が良いとのお薦めもあり載せることになった。
《おやじ流の特訓》
私が24才の頃です。入社してしばらくすると、おやじが「何やりたくない?」と聞いてきた。普通なら「何やりたい?」と聞きそうなものなのに・・。私は高校生の頃から会社でバイトをしていて、仕事内容は良く知っていたので私の答えは明確でした。「豆腐屋さん回りはやりたくないな!」と。当時弊社の主力製品は豆腐製造設備で、しょっちゅう豆腐屋さんの機械の修理や、時には真っ黒になって煙突工事までやったものだ。また、豆腐屋さん向けの機械は売値が安い上に、ぶっきらぼうで横柄な店主が多かったので、できれば行きたくないと思っていた次第。しかし、数日後おやじは私に埼玉県豆腐組合員名簿を差し出し「まずは県南の豆腐屋さんを全て回って、顧客リストを作成しなさい」と告げた。
「俺は、これだけは絶対にやりたくないと答えたのに、何故おやじはそんなことを言うのだろう・・・県南の豆腐屋さんは、150軒以上ある。あぁ~、参ったな~」 その日から、私の豆腐屋さん回りが始まった。
豆腐屋さん回りを始めた私が、所沢のとある豆腐店を訪ねた時の事。「マスコー?何しに来たんだ。忙しいから帰れ!」とニベもなく追い返された。こんな店二度と行くものか!とおやじに言うと、間髪入れずに「もう一度行ってこい」という。なんでよ?と思ったが仕方なく再訪。
二回目は「また来たのか!忙しいんだから帰れ帰れ!」と、手に持ったホースを私に向け水を掛けられ追い返された。
悔しいのと腹立たしさで「もう行かない、絶対行かない!」と言うと、おやじは「ほうそんなことがあったか。もう一度行ってこい!」とあっさり言った。
「行ったけどダメだった」と嘘をつこうかとも考えたが、それもしゃくなので、仕方なく三度目の訪問をすると、「また来たのか!」と言われ身構えたが、ちょっと呆れた顔をしながら「調子のよくない機械があるが直せるか?」と。帰れ帰れ!と追い返されるのを覚悟の訪問だったので、目を丸くし二の句が告げなかった。修理した機械を見て「ほう、直せるのか!」に続き、「揚げカマドを買う予定があるから見積もりを持ってこい!」と。「え?うそ!ホント?」の展開。そして四度目の訪問で30万円ほどの機械を買ってくれたのです。
当時の30万円といえば今の100万円くらいでしょうか。言うまでもなく、これが営業マンとしての初受注となり、あまりにも濃い体験だったので、その時の驚きや喜びは今も色あせることなく脳裏に染みついている。
初の訪問で、「おや、マスコーさんかい。珍しいね、ご苦労さん」と優しく接してくれたお客様は、ほとんど何も買っていただけなかった。
「一度や二度断られても、諦めなければ必ず道は開ける」、おやじは当時の私にこれを教えたかったのだろう。
―おわり―
絵にかいたようなストーリーなれど、これは実際に我が身で体験したこと。1、2回断られると「もうこのお客様は無理だ」とあきらめる営業マンが多いが、人はそう簡単に心を開くものではなく、人と人の繋がりを大切にする人ほど初めのガードは固いと言える。いつの世にあっても、どれほどITが進もうと、人の繋がり方の基本は変わらないと思う。営業会議などでもこのような話をすることがあるが、果たしてどこまで理解してくれていることやら。(笑)